独白 蓉子








永遠よりすこしだけ長い時を、共に過ごした、ような気がした。



本能的な拒絶は嫌悪感より寧ろ絶望を先に呼び覚ます。種の運命からは逃れられないという事実を見せつけられた哀しい羽虫だ。火に飛び込む彼等も身を燃やしながら感じるのは絶望だろう。それとも安堵だろうか。受身は時に酷く甘い。



一線を越えた私達は逆に実にクリアになった。曖昧にぼかしたインクは唯その色彩だけを明確にしていく。不可逆性の染みがいくつも体に焼き付く。スプリングの効かないベッドからは焦げついた臭いがした。





そう、全てを喩えるなら舌の上で溶けていく市販の風邪薬の味。












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独白 蓉子2







抱き締めることで、貴方は私を拒絶するの。


どんなにしがみついても、どうしても出来る僅かな隙間から何かが抜けていく。明確にこれだという像を描けないのに私はそれが、かけがえの無いものだと知っている。知ってしまって、いる。

吐いた息は苦しくて熱くてどうしようもない甘さを含んでいた。体格差から聖の肩口に埋まっている顔。今外気に晒したらきっと紅い。息苦しいから、だけだったらどんなにいいか。




なぜこんなに辛いのだろう。抱き合えば幸せになれると思っていた。無条件に。
好きな人と抱き合うという行為は幸福と歓喜で構成されている筈だった。

ねぇ、この温度を。私達はいったいどれだけ共有してきたのかしら?




答える人のいないまま夜は只、静かに。

噛みつかれた首筋に聖の指先が滑った時、のけぞった先の視界には昨日と変わらない月が不明瞭に映っていた。











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聖蓉習作






「……ようこ」

聖が。
低く低く私の名を呼ぶ。
酷く真剣な顔をして。
色素の薄い髪からしたたる汗が私の胸に垂れ落ちる。

「………ぁ」

くちゅり、と水音が。
羞恥で顔が火照るのが分かる。赤いというより熱い、と感じる。はあっと息をつくと目の前は曇ったように斜がかかる。

「ねぇ…ちょっ…と、…まっ……!」

声は届いて、いるはずなのに。
唇は項まであがってきた。そのまま耳まで唾液の痕ができて、生暖かい息がかかっていく。
聖の表情が読めない。

「………っ…!」

私は緊張と弛緩をただ繰り返す。緩慢に性急に。
息を吸い込んで噛み締めて。吐き出して。
口から出ることばが少しでも意味を持っていたのは、いつまでだろう。

「………いくよ」


まるで生き急いでいるかのよう。
だけど止まらない。…今更、止められない。

「……は…っ……あぁ…!」

目を瞑った後に見えるものは。


至福の色、圧迫感、感謝、満足、荒波、激情。それから、幸せも、不安も、皆平等に押し潰されて。


嗚呼。
……愛って呼んでも、いいかな。


視界が真っ白になる直前の聖の表情が一番、私の弱いところを抉った。










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実は諦めた長編プロットの一部とか2日間だけ拍手だったものとか。