4、It only regrets.
講堂の高い天窓からかいま見えた空は呆れる程に青く、まるで偽物の玩具のようだった。
退屈な日常、と銘打つのもいい加減億劫になるくらい、最近の生活に辟易していた。
快晴、快適。ついでに幸運、とくればひねくれた私はついうがった見方をしてしまう。気味の悪い程全てが思う以上に進んでいく。はっきり言ってつまらない。
今日も、また。スカートが翻るのにさえ軽く眉をしかめてしまう。何もしなくともはためく程の風。微風と呼ぶには少々強く。強風には到底至らない。まあどうせ風がどんな状態であろうと私は眉をしかめるのだろう。かつんとブーツの爪先に当たって飛んだ小石が割れる。ぱらぱらと点在する白粒。それもすぐに風がさらっていく。
はたりとまた裾が。目を細めれば細めただけ世界は優しく見える。完全に閉じれば闇。何も無い筈なのに過敏になった聴覚が現実へと引き戻す。びゅうと唸り声。ついででいいから私もさらっていってくれればいいのに。
…今空飛んだら間違いなく下着見えるわね。
一瞬で掻き消えていく空想。こんなところで醒めなくともと考えながら目を開ける。日光が眩しい。今度は生理的に細まった瞳が微かな塵を拾った。じわり。異物を押し出すために滲み出る涙。
一つ一つの行動は実に合理的なのに。それを殊更無意味に感じてしまう自分がいた。合理的。余り良い響きでは無い。私から遠いからか、蓉子に近いからか。どちらでも無いとは、言い切れなかった。
足下には、色だけは煉瓦の遊歩道。全長だけが取り柄の模様を描くように巡っている。何をモチーフにしているのか、ところどころはめられた陶片が安っぽく光る。鳥に見えないこともない。花に見えないこともない。そんなただの、割れたような陶器の欠片。いつもなら私の興味をひく対象かもしれない。無気力に思う。
無気力。今の私を例えるなら、まさにそれだった。
少なくとも退屈では無かった講義や実習の数々が色を消していった。何も考えられず、それでもクロッキーをするために動いていく手。編みあがったモノクロの風景は綺麗で殺風景で、私が存在している世界に酷似している。まるで剥げかかった玩具の世界。悲しくは無かった。怒りも喜びも、懺悔すら無かった。
感情までが、剥げ落ちていた。
それでも毎日はくるくる回る。夜が来て朝が来る。なんて煩わしい。止まってしまえば良いのに。時間の方でも私の方でも構わない。
若干思い詰め過ぎたような気がして、余り生産的とは言えない思考を切り上げる。いつの間にか歩道は終わり剥き出しの地面の感触。ブーツが鳴らなくなって、代わりのように沈み込んでいく。
嗚呼、この先にもまだ道がある。
呟きはどこかの戯曲にありそうな台詞だった。
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